ファーロード

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第21回旅のはじまり

私を「ミルコ」と名付けた父が出入りしていたのは、国名でいうとロシアでなくソ連である。ソビエト社会主義共和国連邦。ところが、ソ連は30年ほど前に消滅している。 ある日、国のえらい人が「我が国は消滅しました」と宣言したのだ。 信じがたいことであ...
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第20回ロシア語の名前②

「ミルコ・・・・・・?」 「ロシア語なんだ、へえ~」と感心される。 大人になった今では「可愛い名前だね」と言ってもらえることもある。 けれど、子どもの頃は、違った。 「ソ連なんだ・・・怖いね」というようなことを言った子がいた。それから私は、...
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第19回ロシア語の名前①

2009年3月に会社をやめた。 そのあと私は病を得て、しばらくのあいだ闘病生活をした。 退社で通勤がなくなり、独身なので実家に帰り、20年ぶりに両親と暮らすことになった。 年をとり、体の不調はあるにはあるが、仲良く暮らしていた父と母、彼らの...
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第18回「つぎのひと、くる」

都心暮らしをやめてだいぶたったいまとなっては、「上京」はひとつのイベントである。 ある日、ランチミーティングがあって、六本木一丁目駅で下車した。 約束の時間には少々早く、かといってお茶を飲むほどの時間はない。 六本木一丁目駅直結のビルには、...
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第17回タイガでデート

夢を見ないのは、ほんとうに久しぶりだった。 夢を見ずに目が醒めて、自分のしたことが、信じられないほどの驚きをもってたちのぼってくる。 私はビキン川のほとりの、ほぼ垂直に切り立った山に登った。 とうとうクロテンの森に入ったのである。 ビキン川...
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第16回生き物たちの大量死

かつて多くの日本人が海を渡った。 ある人は仕事を求めて。ある人は戦争をしに。 戦争の悲惨さが語られるとき、つねに人間が主役であるけれど、戦争では人間だけでなく無数の生き物が傷つき、死んでいる。 <戦争の世紀>であった20世紀には、クロテンは...
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第15回笑わないロシア人

私はクロテン村で数日を過ごした。 何もすることがないので、天気のいい日は外に出る。 ぶらり散歩をすると、同じようにぶらり散歩している村人に出会う。 ここで会う人会う人、初めてな気がしない。 どこかで会ったようで、なつかしい。 日本人とウデヘ...
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第14回殺しながら生きる③

「自分も食われて糞になる。でも自分が生きてる間は、食わせてもらう。それが自然の中において、人間という生き物と、人間が生きるために関わる他の種の生命体とが結ぶ関係です。お互いに生かし合う関係のなかから、殺すという行為が出てくる。殺すことは生き...
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第13回殺しながら生きる②

アポはちゃんととれていなかった。半ば私が押しかける格好となった。 田口洋美さんが教鞭を執られているという東北芸術工科大学、この大学の名前を、私はなかなか覚えられなかった。何度もメモを開き、行き先を確認する。田口さんの著作にひと通り目を通して...
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第12回殺しながら生きる①

ウサギは淋しいと死んでしまう。猫は好奇心で死んでしまう。マグロは止まると死んでしまう。生き物って、いとおしいと思う。 初心にかえって、クロテンについて考えてみる。 犬や猫のような愛玩動物でもない、牛や馬のように働かされるわけでもない、人間に...