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第55回「もっと、もっと」の罪

いつの時代にも懸命に働いた人たちがいた。 その人びとは、ただひたすら目の前の仕事にまっしぐらに取り組んでいたはずである。 一生懸命、やっていただけ。それなのに、情熱をもって仕事をしていたその日々が、いつしか自分自身の身体をむしばんでいた。 ...
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第54回ミルコ、ミルト(美流渡)へ行く②

北海道の道は、広い。ロシアのよう。 遠くにゆったりと連なる山々に向かって、えんえん続く広い道を、ぐんぐん進んだ。 道はあっちゃんにとって慣れたもののように見えた。そしてしばらく行くと、こう言い出した。 「このへんの病院に、私、入院していたこ...
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第53回ミルコ、ミルト(美流渡)へ行く①

芹澤君の家では、巣立っていった娘の部屋が空いていた。 そこを使わせてもらう。 部屋に入ると、ベッドがあるのに、その真横にマットレスも敷かれている。 「寝心地のいいほうを使ってね」 と、ホストマザーのあっちゃん。 「じゃあ、おやすみ」。 一人...
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第52回非常勤講師の夏休み・後半へ

毛の伸びに比例して、ニャンキーはしだいに元気を取り戻し、なんだか以前より若返った。 毛刈り直後はナメクジのようだったが、またネコになってきた。 目の輝きが増して、顔つきが愛らしくなった。 フレンドリーになり、性格まで明るくなったみたいだ。 ...
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第51回ニャンキーの「毛のない生活」

イリーナと過ごしたロシアから帰国した翌日、わが家では<ネコの毛刈り>という一大イベントが待ち受けていた。 ニャンキーは、私が六本木に住んでいた編集者時代に、六本木駅前で衝動買いしたネコだ。ネコに15万円も使ったことに、私の両親は「ミルコはと...
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第50回ダーチャに泊まる⑤

私が目覚めて二時間経ったが、イリーナはまだ起きてこない。 私は大きなカップでチャイを(日本では飲まないミルクを入れて)たっぷり飲んで、出国前に私をインタビューしてくれた雑誌の担当者に手紙を書いた。 イリーナの猫、クリスが何度か私の顔を見に近...
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第49回ダーチャに泊まる④

三日ぶりに町へ戻った。 ホテルで洗濯をし、洗髪をし、ビデオカメラも充電をして、再びワロージャの車が迎えに来るまで、大忙しだった。 こちらに来てから初めての雨が降り、ホテルのレストランで遅い朝食を摂る。 レストランのテーブルでWi-Fiの電波...
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第48回ダーチャに泊まる③

イリーナの案内で街へ出て、ビジネスランチタイムのカフェに入った。 天井が高く、店内は広い。 内装とテーブルや椅子はすべて木造だった。 ビュッフェ形式の学食のように、お盆を持って並んで進む。 ロシア料理によく出る蕎麦の実=グレーチカを私は好き...
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第47回ダーチャに泊まる②

涙を出し切って落ち着きを取り戻すと、ますます自分の不甲斐なさに落ち込んだ。 イリーナに、呆れられたにちがいない。 そうなってくるともうこれ以上、ここにいてもイリーナたちに迷惑をかけるだけだろう。 しかしすぐさま日本へ帰ることはできない。日本...
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第46回ダーチャに泊まる①

ダーチャへ行くことになった。私にとってはたいへん急な話だった。 ロシアの7月は陽が長い。5時に仕事が終わったあとも、遠出を楽しむことができる。 その日のお勤めを終えたイリーナは、ワロージャの運転で私を迎えにきた。 郊外へ出てからしばらく山道...