第107回真島俊夫さんの「レ・ジャルダン」④

そのときのことを、わたしはまだ書くことができない。

父の死顔やその前後のことをふと思い出すだけで、いまはまだとても胸が苦しい。

ミルコのファーロード

焼き場から持ち帰った骨を、父のいつも座っていた大きな椅子のそばに置いて、仮の小さな仏壇をつくって花を手向け、ただひとり静かに日々を過ごしていたころ、日比谷ミッドタウンで再会したゆりゆりが、ウチにやってきた。

「うちの父が亡くなったときも、ミルコさん来てくれたんだよ」と言ってお線香を上げてくれた。そして、わが父もゆりゆりのお父上と同様、クラシック好きだったことを話したことがあっただろうか、一周忌を終えたらお父さんの追悼コンサートをやろうよ、という。

「ミルコさんがやってみたいと言ってた曲があるでしょう? 真島俊夫さんの曲・・・」

 

会社のない日はいつも大音量でクラシックをかけて、オーケストラの演奏に合わせて指揮をするように手をぶんぶん振って、部屋のなかを大きな身体でシロクマのようにぐるぐる歩きまわっていた父の姿が浮かんだ。父が亡くなるとそのショックからか同時に母も倒れてしまったこともあり、いわゆる「お葬式」というものをやっていなかった。父の好きだったクラシック音楽で一周忌の供養をできるなら、まちがいなく父は喜んでくれるだろう。やるなら、私にとってクラシック・コンサートへの初挑戦になる。

KYOKO YAMAGUCHI

真島俊夫さんの曲――というのは2010~11年ごろ、わたしが出版社を退社してジャズライターのようなことをしていた時期に、真島さんからいただいた「レ・ジャルダン」のことだ。その曲のことを、日比谷でゆりゆりに話していたのである。

吹奏楽やジャズの雑誌とCDでライナーノーツやインタビューを書くという仕事をするなかで、『ゴールドポップ3』(キングレコード/ロケットミュージック)という作品があった。ビッグバンドジャズのオリジナルナンバーを吹奏楽アレンジでやるなど、ジャズと吹奏楽を熱心にやってきたわたしにとっては、その両方の美味しいトコどりのような楽しい企画だった。吹奏楽界の巨匠である作編曲家・真島俊夫さんとその仕事でお会いすることができて、真島さん主宰のライブ・パーティ「ボージョレ・ヌーボー解禁を祝う会」(於・紀尾井町)に伺ったとき、「レ・ジャルダン」を初めて聴いた。ソロは、東京佼成ウインドオーケストラのクラリネット奏者さん。ものすごく美しい曲ですっかり魅了され、その感想を真島氏ご本人にお伝えしたところ、後日なんとその楽譜がウチに送られてきた。ワインの会でジャムセッションに参加したので私がクラリネット吹きであることはご存知であったろうけれど、思いがけない真島さんからのプレゼントに感激した。

レ・ジャルダンとは、フランス語で庭のこと。

楽譜の表紙には、作曲者・真島俊夫氏の言葉が、書かれてある。

<パリの建物には必ずと言っていいほど中庭があり、そこは都会の中であるにもかかわらず驚くほどの静寂さに包まれています。その中庭の印象を描いたのがこの曲です>

 

いつの日か、この曲を自分のクラリネットで吹きたいと、かねがね思ってきた。

そのときがついぞやってきたのだろうか――

 

わたしたちは一年後に、クラリネットとピアノのデュオで、コンサートをやろうと約束した。

 

<つづく>

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