私たちを乗せたクルマはみずほ台駅から遠ざかり、のどかな風景の中を通り抜けて着いた場所は広大な敷地だった。「河出興産」に到着した。
この近辺はあらゆる出版社が倉庫を置いている、出版のまちだ。
巨大な建物があちこちに、おそらくぜんぶ出版倉庫であろう、いくつも並んでいた。けれどそれぞれの背がそれほど高くないので、空は広い。
「へぇ~、ここが・・・」
とぐるり見渡していると、どうぞこちらへ、とまず応接室に通された。
入ると大きなテーブルの向こう側に、大人の男性が三人、並んでいる。
真ん中が河出興産の荻生社長。その両側には伊藤取締役と総務部長、三役そろい踏みで迎えられ、「ようこそわが社へ」といった歓迎の辞が述べられ、倉庫会社を取り巻く物や人の流れについて説明を受けたあと、じっさいの倉庫へ案内された。
私はカバンからビデオカメラを取り出して訊いた。
「撮ってもいいですか?」
「え?」
「学生たちに見せたいんです」
「なるほど、どうぞ。でもこの出版在庫の山を見たら、編集者になりたいっていう学生さんが減ったりして・・・」
なんて話をしながら、みなさんとぞろぞろと倉庫内に入った。
薄暗い中に入って見上げると、うず高く積まれた本の山、山、山・・・・見上げきれないほど、であった。イメージングはしてきたものの、ここまで膨大な量の待機本を、倉庫が擁しているとは、思わなんだ。
大量の本を積んだ山は、大きなブロックをいくつもなして(パレットと呼ばれる。パレット一枚につき700部の本が搭載される)、整然と置かれていた。
ブロックとブロックのあいだを、フォークリフトを小型にしたような乗り物で、係の人が行き交っている。たくさんの人が、働いていた。カッコよくフォークリフトを操縦している若い女性もいる。
「ここからこっちは、注文を受けて、これから出荷される本です」
ベージュのフリースを着た伊藤さんが、大きな身振りで本のかたまりを指している。
彼の説明を聞きながら、私はビデオカメラをズームさせる。
「ほほう、それじゃあ、このブロックにいる本たちは、ハッピーですね?」
「一方、こっちのかたまりは、さようならです」
「断裁を待っている子(本)たち、ですか?」
「はい。かわいそうですけど。そういう運命です」
「まだ、新品じゃないですか・・・!」
「そう。それでも潰される本は、たくさんあるんですよ。そして、このあと、ミルコさんが見学に行かれる「古紙再生の工場」へ、送られます」
<つづく>
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