第62回出版のまち・さいたまの出版倉庫

私たちを乗せたクルマはみずほ台駅から遠ざかり、のどかな風景の中を通り抜けて着いた場所は広大な敷地だった。「河出興産」に到着した。

この近辺はあらゆる出版社が倉庫を置いている、出版のまちだ。

巨大な建物があちこちに、おそらくぜんぶ出版倉庫であろう、いくつも並んでいた。けれどそれぞれの背がそれほど高くないので、空は広い。

 

「へぇ~、ここが・・・」

とぐるり見渡していると、どうぞこちらへ、とまず応接室に通された。

入ると大きなテーブルの向こう側に、大人の男性が三人、並んでいる。

真ん中が河出興産の荻生社長。その両側には伊藤取締役と総務部長、三役そろい踏みで迎えられ、「ようこそわが社へ」といった歓迎の辞が述べられ、倉庫会社を取り巻く物や人の流れについて説明を受けたあと、じっさいの倉庫へ案内された。

 

私はカバンからビデオカメラを取り出して訊いた。

「撮ってもいいですか?」

「え?」

「学生たちに見せたいんです」

「なるほど、どうぞ。でもこの出版在庫の山を見たら、編集者になりたいっていう学生さんが減ったりして・・・」

なんて話をしながら、みなさんとぞろぞろと倉庫内に入った。

薄暗い中に入って見上げると、うず高く積まれた本の山、山、山・・・・見上げきれないほど、であった。イメージングはしてきたものの、ここまで膨大な量の待機本を、倉庫が擁しているとは、思わなんだ。

大量の本を積んだ山は、大きなブロックをいくつもなして(パレットと呼ばれる。パレット一枚につき700部の本が搭載される)、整然と置かれていた。

 

ブロックとブロックのあいだを、フォークリフトを小型にしたような乗り物で、係の人が行き交っている。たくさんの人が、働いていた。カッコよくフォークリフトを操縦している若い女性もいる。

 

「ここからこっちは、注文を受けて、これから出荷される本です」

ベージュのフリースを着た伊藤さんが、大きな身振りで本のかたまりを指している。

彼の説明を聞きながら、私はビデオカメラをズームさせる。

「ほほう、それじゃあ、このブロックにいる本たちは、ハッピーですね?」

「一方、こっちのかたまりは、さようならです」

「断裁を待っている子(本)たち、ですか?」

「はい。かわいそうですけど。そういう運命です」

「まだ、新品じゃないですか・・・!」

「そう。それでも潰される本は、たくさんあるんですよ。そして、このあと、ミルコさんが見学に行かれる「古紙再生の工場」へ、送られます」

<つづく>

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